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文豪コロシアム×創作論
肥前文俊 先生
読者を魅了する登場人物の指標について
登場人物の魅力について長らく考えていることを書きます。
なお、これからの内容は、「すべき」ではなく、より良い作品を作るにあたって、参考にしてほしいという意味合いです。
創作者の意思がいちばん大切なので、取り入れられそう、参考になりそうなところを使ってください。
さて、皆さんにも読者(消費者)として、愛すべき大切なキャラクターがいるのではないでしょうか。
どのようなキャラクターに魅力を感じているでしょうか。
そして、同じように優れた魅力を持った人物を書けているでしょうか?
人が感じる魅力は、大きく分けて三つの要素があると考えられています。
1つ目は外見的魅力。
色々な登場人物のファン投票なんかを見ていても、あるいはファンアートの量を見たりしても、外見的な魅力に優れた美男美女はやはり人気があります。
顔が整っている、背が高い、スタイルがいい、愛嬌のある顔をしている、種族的な特徴がある(エルフや猫耳など)。
この外見的魅力という要素は、イメージしやすいのではないでしょうか。
私はグランブルーファンタジーというゲームのナルメアというキャラがとても好きなのですが、それを伝えると不思議と皆さん「なるほど、そうだろうね」と深く納得されます。理由はよく分かりません。
ですが、中には見た目は特別優れているわけではないのに、とても愛されるキャラクターもいますよね。ジェフリー・ディーヴァーの『ボーン・コレクター』という有名なミステリ小説があるのですが、この主人公は事故で頚髄損傷を負い、首からしたがまったく動かないのですが、とても魅力的です。
ここで重要になってくるのが2つ目の要素、内面的な魅力です。
優しい、自分に好意的、気配りが出来る、ユーモアがある、芯がある。
挑戦的で諦めない、自信がある、知性が感じられる。
嘘をつかない、裏切らない――などの特徴があります。
そして、これはあまり意識していない人も多いと思いますが、3つ目が社会的な魅力です。
王族や貴族、あるいはお金持ち。
他にも数百万人が登録しているVtuber、学園ものなら生徒会長、陽キャ、ギャルというのも、一つの社会的なステータスとして、魅力を感じる要因になります。
学園ラブコメものなどではタイトルに用いられることもよくあり、分かりやすいかもしれませんし、大昔から玉の輿に乗るなどと言うのは(賛否は置いて)女性向けで一つの人気ジャンルになっています(した)。
外見、内面、社会的魅力。
これらの要素が絡まりあって、メインを張れるような魅力的な登場人物が出来上がっていくわけです。
特定の人気が出やすい組み合わせもあることでしょう。
いま挙げた要素は、創作での魅力ですが、同時に現実世界においても非常に共通した魅力でもあります。創作は仮想現実ですから、その魅力も似通うわけです。
人の魅力については、真面目に研究されていますので、そういった分野を調べてみるのも、創作に活かせるかと思います。
とはいえ、創作ならではの魅力の伝わり方、というものがあります。
私はいくつもある上記の要素の中で、特に創作での魅力に強い影響を与えるのが2つ目の要素。
そのなかでも「価値観・信念」だと考えています。
・血も涙もない悪役も、自分の信念に基づいて、敗れるその最後の一瞬まで殉じる。
・お金が全てと考えている悪徳商人が、どれだけ苦境に陥っても、最後まで拝金主義を曲げない。
・正義感に溢れすぎてウザい善人キャラが、その正義感に従って、どんな強敵、政治的上位者に対しても折れずに意思を貫く
これらの例では、多くの場合作中では「共感」はされません。
ですが、そこに価値観や信念に一貫性を認めた場合、その生き方、生き様とでも言うべきものに、読者は「納得」を覚えます。
「まっすぐ自分の言葉は曲げねぇ。それが俺の忍道だ」
なんて大人気になった忍者マンガ『NARUTO』などはその代表ですし、最近アニメ化して大人気の『送葬のフリーレン』なんかでは、「人をもっと知りたい」「ヒンメルならそうした」という価値観を大切にしています。
逆に、この価値観や信念に一貫性を失ってフラフラとした時、作中人物から魅力が一気に失われてしまいます。
もしナルトが「やっぱり火影を目指すより、モテと金が大事だよ」などと言い出したら、読者は一気に離れてしまいます。
「強さってなんだろう?」と愚直すぎるほど愚直に猛練習を重ねていた『はじめの一歩』がプロを引退し、トレーナーになった時には、読者から大きな反発を生みました。
とはいえ、これらの価値観が変化してはいけないわけでもありません。
変化が悪いと言うよりは、フラフラと定まらないことが問題です。
何らかの影響を受けて、強固な価値観が揺らぎ、新しい価値観を構築するのは、むしろ魅力を増す機会でもあります。
先程の例を上げた正義感が溢れた善人キャラで考えてみましょう。
これまでは自らの思い込みで裏付けもなく突撃を繰り返していたキャラが手痛い指摘を受けて、自らの正当性を疑う。
そして、自分が正しいことは尊いと信じた価値観はそのままに、ただ暴走するのではなく、事前に情報収集が必要だと考えを改めるようになった――などの流れがあれば、読者も納得してくれます。
また、先述のはじめの一歩でも、トレーナー業を通じて、新しい面での強さを身に着けていく、という流れになっていくことでしょう。
また、長所ばかりではなく、短所も多少あった方が、人らしさがあり、魅力が引き立ちやすいのも確かです。
ジャンプの名作『ダイの大冒険』で大人気のポップは、女性に弱いし、嘘はつくし、気が小さくて時には戦場から逃げ出すけど、最後の最後では見捨てないし、その実誰よりも勇気がある、という所が多くの読者を惹きつけました。
人物を考える際には、
・このキャラクターはどういう価値観を持っているんだろう
・その価値観に従うと、どういう行動や判断をするのだろう
というのは、漠然とでも考えておくことが大切です。
そして最後に。
人はとても、優秀な人を愛します。
オオタニサンがあれほど人気なのは、投手としてもバッターとしても極めて一流だから。
藤井聡太氏や羽生善治氏の人柄が愛されるのも、偉大な成績があるからこそ、というのは(表立って言われませんが)実はとても大きく影響しています。
落ち目になると、途端に多くの人が離れていく、という話は枚挙に暇がないですよね。
平凡や無能に対して、人は驚くほど冷淡・無関心になります。
作者としては、天才ではなく凡人や無能を書きたい、という意欲に駆られることもあるかもしれません。
ですが、どれか一つだけでもキラリと光る資質をもたせ、そこに輝きを当ててあげることが、魅力を伝える秘訣になると思います。
以上、現実と創作における、人の魅力についてお伝えしました。
これらの要素は書き出しですべてを表現する必要はなく、物語の進展に合わせて小出しに、そして充実させていくことが大切です。
皆さんの書き出す人物に、魅力が増すことを願っています。
2013年11月小説家になろうに投稿した『青雲を駆ける』で商業デビュー。