トップページ > 文豪コロシアム×創作論 > 3×4=12 先生③
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③ オチを決めたら、ゴールに向かって突き進む!
最後の創作論となります。ここまで読んでくださり、誠にありがとうございます。最後まで何卒宜しくお願いいたします。
③ オチを決めたら、ゴールに向かって突き進む!
こちらも書いてある通りで、申し訳ございません。これは私が使っている手法で断トツに多いです。簡単に言いますと、最初にオチを決めたらそれをゴールとし、そのオチに辿り着くまでの過程を肉付けしていきます。また私はミスリードが好きだったり、オチを読むまで内容が不透明だったりといった作品が好きでして、尚且つ日常に非日常のワンアイディアを加えた作品ばかりを執筆しております。
例えばですが、『事件性のある肉だと思ったら、ただの腐った肉だった』がオチだとしたら、どうしたらそのオチになるのか考えます。
人肉だと思ったら、ただの腐った肉だった
(なぜ腐った肉?)炎天下で腐った
(なぜ人肉だと思った?)ラジオの報道を聞き、特徴が一致した
(なぜ炎天下でラジオを聞いた?)外でバーベキューをしながらラジオを聞いた
(特徴が一致とは?)ご馳走してくれた人
(なぜご馳走してくれた?)腹を空かせていた男たちを見かねて
(なぜ腹を空かせていた)バーベキューに来たけど食材を忘れた
(なぜ忘れた?)役割分担が曖昧だったから
(なぜバーベキュー?)特に決まりはない。冒頭のシチュエーション
上記のように、なぜなぜ分析など疑問を繰り返していくとオチに向かって簡易的なプロットが完成されます。では、ここでミスリードを考えます。
私は③をミスリードとし『バーベキューにきた若者が食料を忘れ、偶然ご馳走になった老夫婦は実は殺人犯で、事件性のある肉を食べさせられた』というストーリーで進めていきます。そして最終的にはオチである『ただの腐った肉だった』で完結させます。
あとはプロットに肉付けしていくだけで、完結した作品は以下の通りです。
『恐怖の肉』
最高の天気に最高のロケーション。川のせせらぎに耳を傾けながら、谷は用意したビールを配り3人で乾杯した。
「よし、バーベキューの準備でもしますか」
谷がそう言うと、岸は車から網やトングを取り出し、林は木を積み始めた。谷が積み上げた木に火を点けると、チリチリと音が鳴る。
「よし、焼き始めるか」
食材が置かれるのを今か今かと待つ。しかし待っているだけで、食材を置く者がいない。不思議に思った谷は言う。
「早く持ってきてよ」
しかし誰も動こうとしない。3人は困惑した顔で、お互いの顔を見る。
「俺は車の手配だったけど」
谷がそう言うと、岸と林は、
「俺は酒の用意」
「俺はテントやバーベキューセットの用意」
と言う。あろうことか、誰も食材を用意していなかった。こんな素晴らしいシュチュエーションにも関わらず、肝心の食材がない。ここから車で1時間ほどにスーパーはあるものの、すでに3人はアルコールを飲んでいた。先ほどの楽しげな空気は一変し、絶望な空気に包まれる。
食材がないまま、これ以上アルコールだけを摂取するのは厳しい。しかも、この炎天下。喉はひたすらに水分を欲している。谷がチェイサー代わりに持ってきたミネラルウォーターを一口含むと、
「もう温い」
2人も頷いた。あまりの暑さに、アルコールが汗で抜けていく。
3人は目の前の川に飛び込んだ。
「ふうー、気持ちいい」
谷が上向きになりながら全身を川に任せていると、炭と焼ける肉の匂いがした。到着してから3時間。そして楽しみにしていたバーベキューもお預け。となれば、当然腹は減る。3人は勢いよく起き上がり、匂いの元を辿った。
ジュウ、パチパチパチ。油と炭が交わる匂いと音。聞いただけで、よだれが止まらない。遠くには、見た目が50代ぐらいの男女が2人でバーベキューを楽しんでいた。男は3人の姿に驚きつつも何かを察したのか、手招きをしてくれた。
話を聞くと二人は夫婦で、夫が早期定年退職をしてからキャンピングカーを買い、キャンプをするのが趣味だと言う。谷たちも事情を話すと、夫婦は
「一緒に食べよう、大勢の方が賑やかでいい」
と言ってくれた。
谷は車から残りの酒を持ってくる。アルコールを摂取し、肉を口に放り込む。夫婦はすでにお腹が満たされており、谷たちの食欲に驚かされた。
「さすが、若いわね。あなた」
「そうだね、多めに用意してよかったよ」
夫は思い出した表情を浮かべ、椅子の下に置いてあった木箱を取り出した。
「特別に用意していたのを忘れてたよ。是非、食べて」
木箱には高級そうな肉が詰められていた。谷たちは目を輝かせながら頷く。その様子に喜ぶ夫婦は、
「ちょっと戻るね」
と言って、キャンピングカーに戻った。
谷たちは早々に目の前の肉を片付け、木箱の肉を網で焼いた。肉汁が贅沢に溢れ出し、少しレア気味の状態で谷は口に運ぶ。
「なに、これ。初めて食べた」
その興奮が伝わったのか、2人も早々に口に運んだ。谷たちの興奮は止まず、アルコールを飲んでは肉を運び、肉を運んではアルコールを飲むといった単調作業が始まった。
満足するまで食べた谷は、目の前に置かれているラジオに手を伸ばし、電源を入れた。
「続いてです。連続殺人犯が未だに逃亡中です。容疑者は55歳の男女で、キャンピングカーで逃走している模様です。逃走中も犯行を繰り返しており、遺体の一部が見つかっていません」
楽しい時間を塗りつぶすのは、恐怖である。3人とも同時に顔を上げ、お互いの顔を確認した。顔面蒼白である。まさか…あの夫婦が。こんな偶然あり得るだろうか。岸が突然後ろを向き、嘔吐した。
谷も気分が悪くなったのか、後ろを向き嘔吐する。
もしかして、この肉って。アルコールと、木箱に入っていた高級感に惑わされていたのか。思い出してみると、あの肉は他の肉より明らかに酸味が効いていた。もしかして、あれは牛でも豚でもなく…。
夫婦がキャンピングーから下り、テーブルに戻ってくる。そこには吐しゃ物をまき散らし、憔悴しきっている三人の姿があった。夫婦は驚き、駆け寄った。
「大丈夫ですか!?」
夫の声に反応はない。後ろで妻は言う。
「あなた!この牛肉、腐ってるわ」
<了>
オチを考えてからプロット出し、肉付け、完結するまでの時間は一時間程度です。最初から最後まで決まっていますので短編ですと書きやすく、長編では必要に応じてプロットを増やしながら、オチに向けて書き進めることができます。
この方法を使い、最近ですとホラー&ミステリー短編大賞や第4回文芸思潮新人賞で受賞することができました。
長々と三回にわたり書かせていただきましたが、私が言いたいことはただ一つです。
『完結させること』
この言葉に重きを置き、私が小説を完結まで執筆するための手法は以上となります。最後まで読んでいただき、誠にありがとうございます。少しでも役に立てましたら、嬉しい限りです。今後の皆様のご活躍を心よりお祈り申し上げます。ありがとうございました。
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