文豪コロシアム×創作論 

 とびらの先生 

創作論

「あなたはなぜ小説を書いていますか?」

 

 そう尋ねたら、十人十色、様々な回答が寄せられるでしょう。

 ――自分の信念を伝えるため、作家という職業に憧れて、などなど。「特に目的はない、ただ楽しいから」という人も少なからずいると思います。まさしく、私自身がそうでした。

 しかし思いつくまま書き殴っていたというわけでもありません。独創的かつリアリティのある世界観、カッコいい主人公、熱いストーリーを追求していたつもりです。なぜか読者の数は増えなかったけど……世間の流行が偏っているから仕方がない、と笑って諦めて、悩みもしていませんでした。

 

 そんな創作生活に、ちょっとした変化が起きたのは五年ほど前。

 私はSNSで、多くの作家さんと交流をしていました。俗にいうワナビ――極的に書籍化、コンテスト受賞を目指している人や、すでに何作品も書籍化を果たしているプロ、出版関係にお勤めの方もいました。

 

 彼らは私の友達でも同好の士でもなく「商業の先輩」でした。作品に対し、個人的に面白かったか否かではなく、「どうすればもっと読まれるか、書籍化できるか」という視点で、日々談義を交わしていました。

 私は自分の作品に対し、忌憚のない意見を求めました。彼らは快く了承し、通読してくれました。結果は……「作品は面白いキャラも良い、しかし読者のほうを向いていない」――でした。

 

「タイトル、あらすじが不親切で、本編が想像できない。更新ペースが低い。一話あたりの文字数が多く、ちょっとした空き時間で読み切れない。2~4千字程度に抑えたほうがいい。序盤からキャラ数が多すぎる。難読漢字にはルビが必須、そもそもなるべく使わないほうがいい。適宜、改行と空行を入れる……etc」

 

 細かくてめんどくさくて楽しくない作業、小手先の、WEBサイト攻略法。こんなの創作論じゃない!と思えるような内容です。しかしこれ以上なく大切で、重要なものでした。

 

 読者――本を読む人。それは「この作品のファン」ではなく、「たくさんの小説の群れから、次に読むものを探している人間」を意味します。つまりもともと私のことなど知らない、作品を読む義務も義理も意欲もない、通りすがりの赤の他人です。

「読者の方を向いて書く」とは、今読んでいるその人をおもてなしすること(だけ)ではなく、通行人を振り向かせ招き入れることです。当時の私には、その意識が皆無でした。「手に取ってくれた人を喜ばせる」ことばかり考えて、「手に取る人を増やす」努力を何もしていなかったのです。

 まず手に取って、読み始めてもらわなければ、クライマックスで感涙なんてさせられるわけがなかったのに。

 

 そしてこの概念は、私の創作方法のすべてを変えました。

 集客のための広告部分だけでなく、本編の文章、展開や構成も見直しました。

 読者と作者は別の人間なのだから、自分自身はこれで良しと思えても、違う解釈、評価をされるかもしれない……他者の視点というものを取り入れると、自分の未熟さ、粗が目につくようになりました。今思えば、かつて私が推敲と言っていた作業は誤字脱字チェック程度のものでした。そこに主人公像やストーリー展開から見直す、と作業を追加したのです。

 

 そうすると(もちろん、努力をしたのはそれだけではありませんが)、作品への評価に明らかな変化が訪れました。書籍化を果たした代表作のみならず、先に連載していたマイナージャンルの大長編、短編に寄せられるPVが激増したのです。同時に、「感動した、面白かった」という感想も……。

 

 

 私はこれを、かつての自分と同じ状態の、プロを目指している作家さんたちにも体験してほしい。

 商業主義かと反射的に拒絶をしないで。指摘のひとつひとつを取って「こんなことに意味は無い」と切り捨てないで。どうか、本質に気付いてほしい。

 

 間口を広げるということは、自分の書きたい作風を抑え込み、万人向けに薄めて軽くするという意味ではありません。『この我が傑作を』より多くの人に届けるための、交通整理のようなものです。

 SNSでは、「書籍化作家の語る創作論は、サイトの攻略法やらなんやら小手先のことばかり。世界観や主人公像など、作品の本質を語らない」……と、揶揄する人も散見されますが。

 そりゃあそうです。世界観や主人公像に正解なんかない、すべての作品が素晴らしいのだから。あなたの大好きなものを大切にしてほしい、口出しなんかしたくない。だからこそ、それをきちんと他人に届ける方法を、努力を、ぜひ頑張ってほしい。せっかくの名作を多くの人に読ませてあげたい。あなたの才能を出版社に伝えたい。

 

 創作論とは、何を書くかではない、どうやってそれを他人に伝えるか――その方法を模索するものだというのが、今なお自分に言い聞かせながら続けている、私の信念です。

とびらの       X (旧Twitter) ID: @tobiranoizumi 

作家。代表作は双葉社Mノベルスf「ずたぼろ令嬢は姉の元婚約者に溺愛される」130万部突破。TL小説「きずもの令嬢」ボイスシナリオ「俺サマ婚」ほか、文章・脚本・漫画原作を作っております。まだできないこと、したことないことへの挑戦が何よりも楽しい。 

作品

きずもの令嬢は妹の身代わりに溺愛される
学校の怖イ噂 
転生ラミアのシアワセな生活
剣の約束
俺サマ系幼なじみと突然結婚するはめになった件 

コミックシーモア