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創作と仕事
「仕事と創作、どっちが大事なの?」
創作に限らず、何かしら仕事以外の活動をしている人にとって、決して珍しくない問いかけでしょう。私も聞かれたことがあります。決して仕事の人間には本音を言いませんが、仕事と創作、どちらが大事かという問いに対して、私の答えは以下の通りです。
「それは呼吸と仕事、どちらが大事か聞くようなものです。私はこの生きにくい世の中を、創作という呼吸器がないと生きられません」
人間社会、私たちが生きる世界について、疑問や不条理、違和感を抱く点は多いでしょう。それに対して「ん?」とつっかかりを感じる人が、作家か研究者になるのだと思います。ほとんどの人は、その違和感を根性で飲み込むか、嗜好品や快楽で流すか、愚痴や相談として他者へ吐き出す。その生き方が、よっぽど生きやすく、苦労しない。違和感が喉に詰まったとき、人並みの対処ができない人、何度対処しても喉につまりやすい人が、作家の体質でしょう。かなり損な体質です。違和感が喉につまって仕方がないから、創作という呼吸器が必要なのです。しかし、同じ違和感が喉につまった人は多いはず。 息苦しさから生まれた創作が、同じ悩みをもつ人の救いになるかもしれない。違和感を作品として昇華したものが、誰かの生きづらさを助けるかもしれない。私の作品が、誰かの呼吸器になるかもしれない。
結局「仕事と創作、どっちが大事なの?」という問いには、「選べない 」という答えが吐き出されます。仕事は社会を構成するうえで、必要不可欠であり、社会がないと人間は生きていけない。しかし、人間が構成するため、社会の構造は不格好で違和感が生まれやすい。それを嚥下して消化するために、やはり人間が創った作品が必要なのです。仕事も創作も、社会を構成する輪の中にある。「どちらが大事か」という物差しで比べる対象ではなく、横並びの存在だと私は捉えています。
同じくらい大事なものを二つも抱えていると、どちらかの比重が重くなったとき、バランスが取れなくなって崩れてしまいます。そうなっては、創作という呼吸器では救えません。今、仕事と創作の二足の草鞋を履いている人は、常に辛い状況にあると思います。仕事の比重が重くなったとき、創作を控えめにすることを許してあげてください。創作に集中したいからと、仕事を手放さないでください。執筆が以前よりも気軽にできるからこそ、仕事と創作のバランスをとる力が、現代の作家には必要な能力だと思います。私もまだ、未熟な作家です。仕事に追われて創作ができなくなった時期もあったし、創作がしたくて定職につかなかった時期もあります。自分にとって、仕事と創作の一番バランスの良い状態を、私もまだ探しています。本当は作家活動だけで食べていきたかった。仕事をしている時間なんてもったいない。悔しくてたまらない思いはずっとありますが、作家業だけでは生活できないのも事実です。私はこの喉の詰まり、息苦しさを、今日も創作という呼吸器で乗り越えます。筆を折るときは、私が死ぬ時です。寝たきりになっても、指が動かなくなっても、脳に電極を突っ込んで思考を文字に起こしていたい。最期に息が止まる瞬間まで、書き続けていたい。それが私にとっての、創作の在り方、小説の書き方です。
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